小話

無色透明の未来(2−1)

まっすぐに投げつけられる無遠慮な視線に、クリスは僅かに身をよじった。もともと、他人に対して酷く人見知りするたちな上に、向けられたまなざしは率直に言えば土足で踏み入るような図々しさが感じられるのだ。それでも、強くありたいという望みの一環なの…

ナガイヨル。

ちり、とランプの芯が燃える音が、静かな部屋に小さく響いた。窓の外の微かな葉擦れの音さえも聞こえてきそうな、静かな夜である。時たま、ページをめくる音が重なる。 広いベッドにクリスとヒューゴ、二人並んで本を読んでいた。互いに目の前の本に夢中にな…

冬の帳。

「寒い」 「……って言われてもなー…」 開口一番のせりふに、ヒューゴは困惑したように首を傾げた。さすがにいくらとはいえ、暖をとるためだけに紋章を発動なんかさせれば、うっかり自分が丸焼けになりかねない。繊細な調整が出来るほど、まだ馴染んではいない…

フラワー。

「これ」 短い言葉と同時に差し出された小さな花束に、クリスはぱしぱしと目を瞬かせた。どこからか摘んできたのだろう、小さな草花を細いリボンで束ねただけの慎ましさから、手作りであろうことが容易に察せられた。ふるふると揺れる花弁は柔らかく、瑞々し…

秋と乙女と永遠の悩みの関係性について。

「わっ、ちょっ、待っ…!」 慌ててかけた制止の声は、間に合わなかった。カァン!という甲高い音を澄んだ秋空に響かせて、ヒューゴの手から訓練用の短剣が飛んでゆく。くるくると宙を待った大振りの短剣は、ぺたんとしりもちをついたヒューゴのすぐ後ろにざ…

Secret Latter

「ほいよ、ヒューゴ」 どっさりと机の上に積み重ねられた手紙の束に、ヒューゴは胡乱げな眼差しを向けた。届けにきたシーザーの声音は、あくまで他人事ということでか、いつもどおりへろんとした明るいもので……それがまた憎たらしい。 その全てに目を通すの…

根気。

(あ) いらっ、と空気が歪むのがわかった。邪魔にならないようこっそりと隣を見上げると、案の定そこにはとてつもなく険しい表情がある。全身から苛立ちとも殺気ともつかない気配を漂わせながら、彼女がぎゅ、と手に力を入れる。本来ならばみしりとも揺らが…

Fight!

「ヒューゴ、ちょっと寄ってみたいところがあるんだけど…いいかな?」 唐突にためらいながら告げられた言葉に、ヒューゴは当然のようにこくこくと頷いた。クリスと旅をするようになってから、それなりに年月が経っているが、クリスが次の目的地について希望…

午睡の夢。

夢だとわかりきっている。わかりきっているのに…抜け出す術が思い至らない。不愉快な熱気に包まれて、クリスはぐるりと周囲を見回した。視界を埋め尽くす赤は、足元から立ち上る熱気の象徴か、それとも。 「わかりきっているのに」 ふ、と自嘲して、クリスは…

夏の夜は短くて。

いつから、と問われれば恐らく、あの夜からすべてが始まるのだろう。血と、焔と、冴え冴えとした月光の元に立つ彼女の姿から。 「……不思議だよな…」 細く微かな月明かりが薄い隙間から差し込んでくる。暑いから、といって窓を開け放していたせいで、カーテン…

蜂蜜。(ヒューゴ×クリス)

もともと昼間から喉のあたりが妙にぴりぴりして、嫌な予感はしていたのだ。異物感、とでもいおうか、違和感が常に喉に纏わりついていて、喋るのも億劫なぐらいだった。そこで大人しくしていれば良かったのだろうが…生憎と日頃の大雑把な性格が祟ったのだろう…

 千年の孤独。(ヒューゴ×クリス)

さあさあと、とどまることを知らない、やさしい雨垂れの音が耳朶をくすぐり、クリスはふわりと双眸を開いた。見慣れた白い天井が、少し目に痛い。窓の外へ視線を向けなくても、全身に感じる水の気配に、クリスはゆっくりと視界を閉ざす。 雨の音は、好きでは…

 ぬいぐるみと彼女。(ヒューゴ×クリス。新婚設定)

「……………クリスさん」 「はい」 麗らかな春の日差しが降り注ぐ午後。滅多に無いクリスさんの休日にあわせて、昼間まで惰眠を貪って(もちろん前夜にあれやそれややることはやっていますので、多少の寝坊は仕方が無いと思う)、ご飯を食べて、お茶を飲んで…さ…

遠く、近く。

たん。…たん。 ナイフが的に突き刺さる軽快な音が、一定のリズムで響く。一連の動作に淀みはなく、よほど手馴れているのだと見ていて解る。的のほぼ中心に突き刺さる銀のナイフと、それを投げた拍子にふわり揺れる銀の髪に、ヒューゴはそっと溜息をついた。 …

眠れない夜は。(タキトス&レキセル)

静まり返った室内に、今は人の熱は微塵も残されていない。本来の部屋の主はもうとっくに自室へと戻り、そばに控えるものたちも同様に姿を消している。灯りは全て消され、陽の差し込まないこの部屋は本当の意味で闇に満たされている。 目線を僅かにあげれば、…

弱音。(ヒューゴ×クリス)

「クリスさん」 「んー」 強めに呼びかけてみても、返って来るのは生返事ばかりで。溜息をついたヒューゴは、ちらりと隣の人を眺めやった。 普段はきりりとしている横顔が、酒精のせいで少しばかり緩んでいるような気がする。表情ばかりではなく、心の鍵が。…

昼寝(ロディ×セシリア)

さらり、と行過ぎた風が前髪を揺らす。誘われるようにふわりとロディは眼を覚ました。暖かい光が、樹上から少しずつ零れ落ちている。いつの間に寝てしまっていたのか、自分自身記憶がなく、ロディはぼんやりと空を見上げた。ぽかりと浮いている白い雲が、ゆ…

彼女のペット。

「…………ナニソレ」 「……何って…」 不機嫌丸出しの視線でそれを眺めながら、ヒューゴがぼそりと呟いた。声といい目つきといい表情といい、もう全身のありとあらゆるところから不愉快オーラが出ている。ご機嫌斜めどころか垂直降下なヒューゴの機嫌に、クリスは…

コドモとオトナ(ヒューゴ×クリス)

人間誰しも、「逆らえない人」というものが存在すると、ヒューゴは思っている。たとえばそれはヒューゴにとってのルシアのように「怖いから」逆らえないとか、ジョー軍曹のように「なんとなく頭が上がらない」とか、まぁいろいろ種類はあるけれど、ヒューゴ…

 Clover(ヒューゴ×クリス)

毎度毎度のことながら、評議会の食えない面々との会談は、クリスにとって非常に疲れるものだった。無表情を顔一杯に貼り付けて、遠まわしに腹を探り合うなんて面倒なことこの上ない。サロメが何かとフォローをしてくれるのだが、それでも一応対外的にはクリ…